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最低限のルール

締結済みの契約書に関連した「修正のための覚書草案」を見たときの話である。当の締結済み契約書名と締結日時が記載されていない。覚書でreferする契約書を指して、「甲と乙が締結した契約書に付いて」とだけ書けばその契約書を特定出来るのは、草案を起案した作者だけである。また、ある時は、契約書締結後の重要な修正覚書がreferされていない。良く調べずに、重要な修正覚書をreferせずにその内容と矛盾した修正覚書を締結してしまえば、後日大きな問題が起こるのは明白である。

何れも、一流化学企業であり、一流製薬企業といわれている企業が関係する事例である。また、ある時は、締結済み契約書の一方当事者甲と当事者でない会社(他の当事者の提携会社)が、締結済み契約書の改訂覚書を締結しようとしている。契約書の当事者でないものがである。又あるときは、締結済み実施権契約書に規定された「別途『供給契約書』を締結する」という条文に従って、『供給契約書』ではなく『取引基本契約書』という名称の契約書を締結しようとしている。何と、『供給契約書』より、『取引基本契約書』という名前の方が内容に合致すると考えたためだという。勝手に名前を変えると後日混乱を起こすことに思いが至らないのである。面倒な確認をしたくないのであろうか。何れも企業でプロとして働いている人たちの作品である。れっきとした法務部員が作成した草案もある。契約書作成の最低限のルールが守られていないのである。

 

この夏休みの悲しい出来事の一つにふじみ野市のプール事故があった。色々な分析がなされており色々な手が打たれるであろうが、失われた命は還ってはこない。(ニュースによると)事故原因の一つに、「このプールには、幾つかの同じサイズの扉があり、扉の4隅に穴が開けられ、コンクリートに固定されたナットにボルトで止めることになっていた。ところが、最初の工事の時に、扉毎に4隅の穴をそれぞれ好きな位置に空け、それぞれの扉の4隅の穴に合わせてコンクリートに穴を空けてナットを埋めた。どの扉にも同じ位置に穴を空けるのが面倒であったのか?掃除の度に扉をはずすが、同じ大きさの穴の位置の違う扉が混じり合ってしまい、それぞれプールのコンクリートの穴の位置も違うために、扉の4隅がボルトで固定できなくなった。そのため針金で止めることになり、今回の事故につながった。」どの扉の穴も同じ位置に開け、コンクリートのナットの位置も同じであれば、針金を使う必要もなくボルト止めとなり、事故も起きなかった可能性がある。

 

契約書の場合もそうであるが、最低限のルール

 

  1. 契約書改訂の際には過去の契約書及びその追補又は修正契約の全てを網羅する、
  2. 契約書改訂の際には権利者が誰かを精査する、
  3. 過去の経緯を知らない誰が見ても混乱を来さないような改訂契約書を目指す

 

を守ることが、混乱や事故を未然に防ぐための有効な手段である。

 

この話を聞いて、「こんな基本的なことを!」とあきれる人もいるだろうが、実際に出来ていないのである。経営者の責任でもある。Professionalは少なくなってきたのである。やはり、ライセンス部員や法務部員にも、『契約書を参照するときには、必ず参照契約書の名前と締結日を記載しましょう』とか『契約書を改訂するときには、全員の権利者の合意がなければ改訂出来ない』などと書いたマニュアルが必要なのであろうか?